続続 Tさんのこと 調査手続きに瑕疵はあるか
おさらい
報道から
2009年 法人設立
2010年3月期 無申告 2012年6月期限後申告
2011年3月期 無申告 2012年6月期限後申告
2012年3月期 無申告 2012年6月期限後申告→本件調査仮装隠蔽所得 500万円
2013年3月期 無申告 2015年7月期限後申告→本件調査仮装隠蔽所得 500万円
2014年3月期 無申告 2015年7月期限後申告→本件調査仮装隠蔽所得 500万円
2015年3月期 無申告 2015年7月期限後申告→本件調査仮装隠蔽所得 500万円
2016年3月期 無申告 2018年12月本件調査 約4000万円 無申告加算税賦課
2017年3月期 無申告 2018年12月本件調査 約4000万円 無申告加算税賦課
2018年3月期 無申告 2018年12月本件調査 約4000万円 無申告加算税賦課
3年ごとに無申告を繰り返してきた。
税務署からの指摘で期限後申告を提出してきた。
収入は1億5000万円クラス
個人的な旅行代や洋服代、アクセサリー代を経費として計上し、無申告加算税510万円、重加算税180万円を含めて3700万円を追徴された。
消費税および源泉所得税合計6500万円追徴。
フジネットワークニュースのスクープ
2018年12月に修正申告している→調査終了
自身の言葉(記者会見)2019年10月23日11時
「わたしのだらしなさ怠慢によりまして」
「想像を絶するだらしなさルーズさによって」
「洋服代…劇場の仕事、テレビの仕事でも使っているから、衣装代だろうと判断した。旅行についても、いずれ仕事につながるかもしれないから、これは仕事かな? と考え、領収書を税理士さんに渡してしまったかもしれない」
「アクセサリーは時計。全部じゃない。」
これらの私的な部分については、
税務職員から、【こちらで線引きをズバッと決めます】と言われ、従った。
検証2
調査対象年度の遡及について検証しよう
今回の調査は、無申告3年事業年度の調査として、着手され、調査対象年度を遡及し課税処理された事案である。
着手後、調査年対象年度を遡及した。
この手続きは、事務運営指針に沿っていたのか?
遡及の条文上の根拠
国税通則法第70条に「更正決定の期間制限」がある。
普通は、5年間である。
調査は、3年で入ったけど、経費がデタラメであると想定されたので、調査を5年にすることは国税通則法第70条①で可能である。
しかし
調査年度をさらに遡及し7年にするには、
国税通則法第70条④1号の要件をクリアする必要がある。
「偽りその他不正な行為によりその全部または一部の国税を免れた」事実の証明である。
具体的に
この会計処理(仕訳)が「偽りその他不正な行為」であるとの指摘が必要だ。
Tさんの場合
アクセサリー代の計上
旅行代金の計上
衣服代の計上
である。(2019年11月1日までの報道から)
第一節 国税の更正、決定等の期間制限(国税の更正、決定等の期間制限)第七十条 次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から五年(第二号に規定する課税標準申告書の提出を要する国税で当該申告書の提出があつたものに係る賦課決定(納付すべき税額を減少させるものを除く。)については、三年)を経過した日以後においては、することができない。一 更正又は決定 その更正又は決定に係る国税の法定申告期限(還付請求申告書に係る更正については当該申告書を提出した日とし、還付請求申告書の提出がない場合にする決定又はその決定後にする更正については政令で定める日とする。)ーーー省略ーーーー2 法人税に係る純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを増加させ、若しくは減少させる更正又は当該金額があるものとする更正は、前項の規定にかかわらず、同項第一号に定める期限から十年を経過する日まで、することができる。ーーー省略ーーー4 次の各号に掲げる更正決定等は、第一項又は前項の規定にかかわらず、第一項各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。一 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税(当該国税に係る加算税及び過怠税を含む。)についての更正決定等二 偽りその他不正の行為により当該課税期間において生じた純損失等の金額が過大にあるものとする納税申告書を提出していた場合における当該申告書に記載された当該純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)についての更正(前二項の規定の適用を受ける法人税に係る純損失等の金額に係るものを除く。)
偽りその他不正
「偽りその他不正」
通説と言われている判決は
「税額を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の行為を伴う不正な行為を行っていることをいうとしている(最判昭51・11・30税資90・707)」
ここでは、調査年分が遡及されたことで、テーマにしているが、実は、もっと大きな意味があり、多くの論文裁判事例がある。
裁決事例
国税不服審判所の裁決事例で検索すると12件ありました。
二つ書きます。
確定申告書の記載に偽りその他不正の行為があるとした事例
裁決事例集 No.6 – 1頁
請求人が貸付先に対して利子を支払った事実を秘匿するように要求し、また、受領した利子の一部を架空名義預金口座に預け入れている事実があり、かつ、これら利子の収入を所得税の確定申告書に記載していない以上、偽りその他不正の行為によって、一部の税額を免れようとしたものと認められるので、更正の期間制限を5年(現行7年)とするのが相当であり、また免れようとした税額に対し重加算税を賦課決定したことも相当である。
昭和47年12月11日裁決
偽りその他不正の行為が認められないとして処分を取り消した事例(平成17年分~平成23年分の所得税に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分、平18.1.1~平23.12.31の各課税期間の消費税及び地方消費税に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分・全部取消し・平成26年1月17日裁決)
《要旨》
原処分庁は、平成17年分の売上金額の一部を隠ぺい又は仮装行為に基づく申告漏れと認定しているが、当該隠ぺい又は仮装行為に基づく申告漏れに対応する所得金額は異議決定により算出されないとしたから、それに対応する所得税額は存在しない。
そうすると、平成17年分の所得税の修正申告により納付すべき税額は、平成17年分の売上金額の残部(上記売上金額の一部以外の部分)の申告漏れに係るものであると認められる。
ところで、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第4項は、納税者が「偽りその他不正の行為」により国税を免れた場合の加算税の賦課決定の除斥期間を7年と規定しているところ、当審判所が上記申告漏れの態様を調査した結果によれば、平成17年分の売上金額の残部が申告漏れとなったことについて、請求人が自らに帰属しないような外形を作出したとか、本件調査において、請求人が真実の所得を秘匿するため、虚偽の資料を作成し又は領収証の控えつづりを秘匿するなどして、これらの申告漏れが発覚し難い状況を作出したとかの事実を認めることはできず、請求人が平成17年分の所得税の賦課徴収を不能又は困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行ったとはいえないから、平成17年分の売上金額の残部の申告漏れに係る行為は、国税通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」には該当しないというべきである。《参照条文等》
国税通則法第70条第4項
検討結果2
整理しましょう。
Tさんの記者会見と報道によれば、
「個人的な旅行代や洋服代、アクセサリー代を経費として計上」
「洋服代…劇場の仕事、テレビの仕事でも使っているから、衣装代だろうと判断した。旅行についても、いずれ仕事につながるかもしれないから、これは仕事かな? と考え、領収書を税理士さんに渡してしまったかもしれない」
「アクセサリーは時計。全部じゃない。」
これが、「偽りその他不正」であるとされたことは明らかである。
帳簿に具体的に「旅行代」「洋服代」「アクセサリー代」をどのように記載し、計上したかは分からない。
わたしが、想像するのは、無申告を繰り返すほどだらしない怠慢なルーズなTさんが、果たして真実の所得を秘匿するため、虚偽の資料を作成し又は領収証の控えつづりを秘匿するなどして、これらの申告漏れが発覚し難い状況を作出したとかをしたのかと言いたい。
単に、領収証をそのまま記載し、そのまま申告しただけではないのか?
まとめ
ここのところは、判例もたくさんあり、論文もたくさんあります。
興味のある方は、自分で調べてください。
わたしの言いたいことは、
調査官に「偽りその他不正な行為でしょうか」と聞いたのかです。
聞いてないばかりか、ズバッと決めてもらったことに柔順に従ったと思われます。
間違いなく言えることは、
課税する側は、
「質問応答記録書」に、
「Tさんが旅行代・洋服代・アクセサリー代は損金にならないことをしっていた」
「法人税を払いたくなかったので、領収証を税理士に渡して計上しました」
と記載させたことは、想像できる。
署長の重要事案審議会を通すためには、このような「質問応答記録」が不可欠である。