調査選定

準備調査
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調査選定

調査選定がよければ、調査は順調。調査官の苦労はない。調査選定は、主に統括官の仕事。

税務署は比率が大好き

選定の基礎は、比率の比較です。

どうやって選定するか

個人事業者が、確定申告書に添付した①収支内訳書②青色申告決算書ですが、現在これは、KSKシステムというデータベースに入力されています。

収支内訳書

青色申告決算書一般用

個人個人に、整理番号が割り振られております。①収支内訳書や②青色申告決算書の右肩にある8桁の数字です。これと業種ごとに割り振られた業種番号があります。

KSKシステムに入力された(OCR処理)決算書の3年間の分析表が出力可能になるのが、5月下旬です。これに間に合わせるため、GW明けは、決算書の入力期限が迫っているため、入力担当は必死になります。

すると、5月下旬に、様々な施策を考慮して、出力基準を決め、分析表を出力します。

全国すべての事業所得者の決算データが、業種ごとに分析されることになるのです。

例えば、

①差益率が前年調査後差益率と比べて目立って低い。

②算出(特前)所得率が目立って低い。

③同業者の前年調査後比率に比して、交際費の比率が高い。

④専従者給与の水準が同業者に比して高い。

基準比率は

税務署的にもっとも信頼性の高い比率は、調査後比率です。前年調査後の分析比率が基準比率。

分析の基礎

収支内訳書と青色申告決算書の科目番号を下記に示しております。

白 収支内訳書 青色申告決算書
A 総売上
B 売上原価
C 差益
D 標準経費 (17) (32)-F
E 算出所得 C-D C-D
F 標準外経費 (11)から(16)の計 (18)+{(20)から(24)の計}
G 特前所得 (19) (33)
H 青色等特典 (20) (42)-(37)+(44)
I 特後所得 (21) (45)

厳密には、減価償却費を建物部分と建物以外に分類するのが、伝統的な手法であるが、OCR処理では、決算書に記載された数字で処理しているため曖昧になってきている。

差益率とは

会計用語ではありません。税務用語です。

総売上ー売上原価=差益    ⇨   差益➗総売上⇨差益率

会計用語的に言えば、売上総利益率でしょうか。

販売費および一般管理費を

二つに分類します。

標準外経費(固定費)

人件費、地代家賃、利子割引料、(建物の)減価償却費、貸倒金

標準経費(固定費以外の経費)

販売費および一般管理費の内標準外経費を除いたもの

算出所得率とは

これも、税務用語です。

算出所得=差益ー標準経費    ⇨    算出所得➗総売上=算出所得率

この率は、売上との比率関係が高いという立場を税務当局は持っています。

特前所得率とは

これも、税務用語です。

特前所得=算出所得ー標準外経費  ⇨   特前所得➗総売上=特前所得率

こちらは、地域的要素などを加味した(家賃相場が高いや人件費がある)率として、青色専従者給与や青色申告特別控除を引く前の所得金額を「特前所得」と呼び、総売上に対する割合を重視します。

比率から見えてくること

税務当局が好んで使うのが、「平均的な○○」という思想に基づいた所得相場。

原価がこれだけかかっているならば、これだけの売上があって然るべきだ。

売上が○○円ならば、平均的な算出所得は○○円。

前年調査後の比率は、これだったという確信。

AIが選定

まずは、上で説明した各比率から見て、異常ポイントが高いものを

AI(KSK)が選定し、その中から、さらに資料せんを加味して、統括官のプロの目で選定が行われます。

中には、プロ?という人も統括官だったりする。税務署も公務員の組織だから、調査能力が高いだけで、統括官になる訳ではない。資料せんを見抜く力や分析表を読み解く力がないと最悪な選定となる。

有効資料せんを数多く持っていると当然ながら、打率は上がる。

選定理由

資料せん

一番は、申告漏れが明らかな資料せんがあること

差益率が低い

差益率が低くなるのは、原価は正しく計上されているが、売上が申告過少の疑いがあると想定します。

正しくは、売上が10,000千円だったが、1,000千円過少申告したとしたら、下記の申告額①になります。

真実の数字 売上比% 申告額 売上比%
売上 10,000 100.0 9,000 100.0
期首棚卸し高 10 10
仕入 2,000 20.0 2,000 22.2
期末棚卸し高 20 20
売上原価 1,990 19.9 1,990 22.1
差益 8,010 80.1 7,010 77.9

売上を一割落としたことにより、差益率が80.1⇨77.9へ落ちる。

単純な売上漏れだけだと、このように、差益率が落ちて目立つこととなる。開業当初は、売上をあげることに一生懸命で真面目に申告しているが、数年経つと、納税に嫌気がさして、売上を過少申告するようになる。すると、差益率が落ちた決算をしてくるようになる。納税額も少なくなる。

税務調査は3年が普通

差益率が落ちてきても、すぐには調査着手しない。3年分の調査年分を取るのが普通なので、3年は泳いでもらう。売上だけでなく、味をしめて、いろいろ工作をしてくるのがわかるような事案もある。来年以降着手事案として選定する。

所得率低調

差益率は、まあまあ平均レベルだが、どうも所得金額が低い。4人家族では生活できる所得金額じゃない。

これは、売上だけを除外すると、差益が落ちてバレやすいと察して、原価も落としてしまうという手口になる。この両落としをやるとほぼ重加算税が賦課されます。仮装隠蔽の指摘を受けます。

在庫調整や在庫過少

在庫の過少申告は非常に簡単にできる手口。仕入は上げているのに、在庫を少なくすることは、原価を多く計上することになる。

インプラントを手がける歯科医師が、よくやる。インプラントのセットは一式が高額になるが、これをきちんと期末に計上しない。

B/S 貸借対照表の分析

貸借対照表まで作成してくる個人事業者は、少ない。

税理士関与でも100%でない。税理士関与でB/Sがないのは、税理士が保険を掛けている状態。とてもじゃないが、正規の簿記の原則に従った決算でないと自覚しているケース。

青色申告会会員レベルで多いのは、会計ソフトで入力したものをそのまま申告会で決算処理してもらって、出してくるとき、青色申告特別控除をたくさん欲しくてB/Sをつけてくる。

あるいは、自己で、フリーのソフトや会計ソフトを使って分からないながら、出力してつけてくる。

税理士が作成していれば、

事業主貸と事業主借は、当然ながら、しっかり検討してくる。

然るべき、預金勘定がない

然るべき、借入金勘定がない

然るべき、消費税関連の科目がない

B/SはOCR処理していないので、AI(KSK)分析には掛からない。プロの目で分析する。

事業主貸が少ないことは、お店から事業主にお金が流れていないこと。

事業主貸(生活費)200,000 現金・預金 200,000

毎月、上記のような仕訳があれば、年末には事業主貸は240万円ある。

事業主貸がなくても生活できるのは、代わりの仕訳外の収入があったり(例えば給与や年金収入がある)、家庭内で生活費を出してくれる人がいるなら、お店から生活費が必要でないと言えるでしょう。

このほかに、経費にならない部分が最終的に事業主貸に集約されます。

水道光熱費一万円の仕訳を経費50%生活費50%で計上した場合、

水道光熱費 10,000 現金・預金 10,000

事業主貸  5,000  水道光熱費 5,000

事業主借はお店にお金がないとき

現金・預金 500,000 事業主借 500,000

こういう仕訳は、調査官から、どこから50万円調達してきたのかと問われます。

しかしながら、現金出納帳の残高がマイナスになることもありえないです。

領収証などが後から出てきて、追加計上するとき

接待交際費 50,000 事業主借 50,000

お店のお金から出金していないので、事業主が持っている自分のお金で払いましたという処理です。

こういった仕訳が集約されて、B/Sに記載されます。ここをプロの統括官が読み解くことになります。