業種別事例研究 ネイルサロン編
駅周辺のビルにたくさん見かけるネイルサロン。
美容サロンと併設されているところもあるが、それほどの設備を必要としないため、専門店を駅前の雑居ビルには多く見かける。競争が激しい。
お客を獲得するため、宣伝は欠かせない。常にキャンペーンに追われている。
多くの店が、SNSやインスタの発信をしている。
中でも、リクルートなどが展開する予約システムを導入している店がほとんどだ。
業種の特徴は、大部分が現金売上であり、非違事例は、売上脱漏または売上と仕入れ除外が多い。調査初動時に現場資料をどれだけおさえるかが調査のキモになる。
現金商売調査の一般的な概要
立地条件
駅周辺
一般の通行人を対象としている。ターミナル駅であれば、会社勤めの帰り道途中下車の客も見込める。
繁華街
遊びにきたついで、デートの前に、お店に出る前のお姉さんに寄ってもらう。
準備調査
立地の確認、事業規模、客層、従事員数、金額を確認するため、HPを閲覧する。HPがない場合は、予約サイト情報を確認する。
規模などによっては、事前の内観調査を行う。
決算書の費目別対売上比率分析表を5年間分作成し、各年の異常比率を抽出し、調査する科目の焦点を絞る。
調査年分以外の法定外資料でも、仕入れや掛売上資料は、現在でも取引がある可能性があるから収集先をメモする。
法定外資料とは、税務調査に入った際に、取引先との取引金額や決済状況を収集し資料せんにしたもの。
現金商売に共通した準備。
事前通知
臨場調査は、店舗に臨場して行えるように予約を入れることが重要である。
例えば、「臨場時間を9時からぐらいにしてお昼までにおおかたの初動調査を終える。昼どきは中断し、午後2時過ぎから再開して午後4時までに終える。」ような形で了解を取り付ける。
実地調査
初動調査
予約帳、主要材料の在庫数量、更衣室やロッカー、従業員氏名と役割を確認する。ゴミ箱確認必須。
現金監査と現金管理状況聴取
レジのつり銭の用意、店内の現金など、保管場所を漏らさず、店主のカバンを含めて全ての現金を確認する。
1日の初めからの売上、昼休み、夜の売上、最後に集計し、現金の保管、持ち帰り、または、銀行預け入れなど現金の流れを丁寧に聞き出す。従業員が現金を扱う場合、ごまかされないためにどのような対策をしているのかを確認する。
銀行に預け入れるまでの保管場所を直に確認する。
駅前店舗の実地調査事例
選定理由
駅前立地良好
所得率が3年目以降低調
不動産購入
事業主勘定が少なすぎる
内観調査
昼と夜に内観調査実施。
従事員数、レジ打ち状況、領収証発行など確認。
カード売上あり。
予約の電話があると予約帳をレジ下から出して記入していた。
事前通知
事前通知を調査経験2年目の21歳女子職員が行う。
青色申告書では、青色申告会員で税理士関与なしであったが、事前通知後、税理士が代理権限証書を持参した。実地調査に立会あり。
調査対象者は、30代半ばの女性でシングルマザー。小学生の子供がひとりいる。
駅前の雑居ビル内に開業し10年目。
臨場調査
概況聴取後、臨場調査実施。
レジ周りの確認を説得し、レジ周りの現況調査実施。
レジ下の棚に予約帳と日々の売上を記帳したノート確認(公表)。
ゴミ箱は空っぽ。
青色申告会へは、進行年分の伝票を持って行ってないため、記帳された公表帳票はなかった。
青色申告会へは、売上を記載したノートから日々の現金売上金額とカード売上金額を書き出してメモを作成し、銀行通帳と経費の領収証を持って行って、帳簿を作ってもらい青色申告してきた。
昨年までの日々の売上を記録したノートやレジペーパーは破棄。
生活状況の確認
シングルマザーで30代の女性です。パトロンやパパがいてもおかしくないし、子供の父からの養育費があるかもしれません。
ここは、しっかりと確認しておかないと後から言われてグダグダになります。
20代半ばで開業し、この繁華街でやってきたのですから、やり手であることは間違いありません。10代からこの街に出入りして遊んできたことや子供の父とは連絡がないこと、パパやパトロンなどお金の面倒をみてくれる者がいないことを確認。
購入した自宅は、実の父母が近くにおり、小学生の子供の面倒をみている。お金の援助関係はなし。
開業資金などを自力で溜めたと言う。
お金の流れを確認
店の売上は、現金とカード売上。レジパーパーを集計して毎日現金売上とカード売上を記帳。
現金は釣り銭を残し、毎日持って帰る。
家賃や公共料金は銀行払い。材料費は、現金払い。
自宅にたまったお金は、経費の支払いや従業員の給料支払いや生活費に当てたり、銀行に預け入れる。
帳簿の確認
3年分の総勘定元帳の現金、銀行預金、売掛金、事業主勘定を確認。
帳簿上から生活費に出ているお金を確認。
3年分の売上勘定のうち現金売上の月々の売上を書き出す。
進行年分の月々の売上を書き出す。
内観調査の領収証控やレジ記録を確認。
勝負は早い
調査対象者の女性に、もう一度、パトロンやパパなど資金援助のことを確かめる。
じっと、目をみて、「現金売上正しく書いてないね。」
いきなりのことで彼女は目をパチクリ。激しく動揺。
税理士が、「いきなりそれはないでしょう」と。
私は、言います。
「先生が作成した帳簿じゃないですから、これを見てください。」
法人が強い税理士でしたが、事業主勘定を見させて、得心しました。
現金売上を正しく書きませんでした。
いくら抜いたのか?
毎月30万くらい
「質問応答記録」作成
午後からは、従業員も来るので、収集した帳票を預かり、本人・税理士を伴い署へ場所を移します。
署の面接ブースでは、泣く泣く。
「そんなにたくさん 月30万なんて抜いてない。」
フロアーに彼女の声が響きます。
自宅の調査を頑強に拒みます。
現金売上を正しく書かずに申告してきたことだけを確認し、質問応答記録書を作成。
また、調査年分を3年から7年間とすること。
銀行調査等反面調査を実施すること。
「払うから今日終わって!」
「やだあ!そんな前からしてないから!」
泣いて叫びますが、張ったり金額では終われません。
重要事案審議会に事案を上げて決裁をもらうにはそれなりの根拠に基づいた調査額が必要です。
調査結果
翌朝、自宅の現況調査。
タンス預金が2000万あまり。郵便局と地元の銀行に簿外口座あり。
銀行調査(各金融機関に調査に入り全国名寄せ検索)により預金を把握。
残高の増加額から毎年の申告漏れ金額を算定。
残高の増加額から所得税と消費税について、調査年分は5年。重加算税5年賦課。
店主のことば
開業から数年は、毎日売上があることにが嬉しくて必死だった。一生懸命だった。勉強なんて嫌いだし、分からないし、税理士に頼むのは会社だと思っていた。白色だと全部自分でやることになりできないので、青色申告会に入った。
毎日の売上を書いた紙や領収証を持っていくと帳簿にしてくれたり、税務署に出す書類全部やってくれることを知り、お願いしてきた。
しばらくして、現金売上を落として申告することを思いついた。不安でいっぱいだったが、一年経ち申告も無事に出来て大丈夫なんだと思った。青色申告会の人も何にも言わなかった。
お店の経営も常連客がつき、安定してきた。なんの不安も感じなくって来て、悪いことをしている意識もなくなっていた。家も買えたし、お金が溜まることがほんとに嬉しかった。
あまりの追徴金額に驚いた。ちゃんと申告したら、えらい金額になることが分かったけど、これでは、この10年やってきた全部がなくなった。
まとめ
自己判断での売上脱漏がバレた時の税負担は、よほど溜め込んだお金があれば払えますが、5年分の重加算税賦課の税金は大変な負担になります。税負担に対しては、適切な専門家の助言を求めていただくのが一番です。
謎解きは、明日。
私にご相談等ある方は、コンタクトからご連絡ください。